新しい無機固体材料の探索と機能開拓
酸化物は様々なエレクトロニクス技術の基盤であり、これまでも我々の生活および産業を支えてきました。これらの酸化物は、陶磁器と同様に高温で簡便に合成可能であるため、これまで多くの物質が発見されてきましたが、新物質・機能開発には限界が見えてきています。今世紀に入り、新世代の材料として注目され始めたのが二種以上のアニオン(O 、F 、N 、H 等)を有する「複合アニオン化合物」です。アニオンとしてO2–のみを含む酸化物と比較すると、複合アニオン化合物は、その組成や配位の自由度が大幅に増えるため、酸化物では不可能な機能制御や新奇物性の発現が期待できます。しかし、F、Cl、N、H等のアニオンは揮発性が高く、従来の酸化物で用いられてきたような単純な高温合成では、複合アニオン化合物の組成や結晶構造を制御することは容易ではありません。実際に、これまでに報告されている複合アニオン化合物の数は、酸化物と比較して非常に少ないのが現状で、複合アニオン化合物の新物質探索には未開拓な領域が多く残っていると考えられます。私は、真空合成・高圧合成・低温トポケミカル反応などを組み合わせることで、新奇複合アニオン化合物を探索し、複合アニオン化合物特有の機能性を広い視野から理解することを目指しています。
1. 層状酸ハロゲン化物の合成とバンド構造制御
水素は燃料電池によって電気エネルギーを取り出すのに使用されるほか、二酸化炭素や窒素と反応させることにより各種の液体燃料や有用資源へと変換可能であることから、次世代のクリーンエネルギーキャリアとして期待されています。半導体光触媒を用いた水の分解反応は、無尽蔵の太陽光と安価な光触媒を用いて、水から水素を直接製造できる可能性を有しており、世界中で盛んに研究されていますが、実用化可能な効率には遠く及ばないのが実情です。
私は、層状構造を持つ新規酸ハロゲン化物に注目して研究を行っています。新しい構造を持つ無機固体物質を見つけ出すことは、通常非常に困難ですが、層状酸ハロゲン化物の構造は、基本となるビルディングブロックの集まりと見なすことができるため、いくつかの条件さえ満たせば、あたかもレゴブロックのように新たな構造を組み立てることが可能です。私は層構造とバンド構造の関係性を研究することで、層状酸ハロゲン化物のバンド構造を合理的に制御する方法を確立してきました。